車椅子ユーザーにとって「避難」とは何か?移動よりも大切な防災の考え方

車椅子ユーザーが避難について考える様子。災害時の避難、在宅避難、防災の重要性を表現したイメージ 01 防災・避難
車椅子ユーザーにとって避難とは、単なる移動ではなく暮らしを守るための備えです。

「避難」と聞くと、多くの人は「危険な場所から安全な場所へ移動すること」を思い浮かべるのではないでしょうか。

テレビや自治体の防災マニュアルでも、「地震が起きたら速やかに避難しましょう」と説明されることが一般的です。

もちろん、その考え方は間違っていません。

しかし、車椅子ユーザーの立場から考えると、その言葉には一つの大きな前提があります。

「自力で移動できること」です。

私は頚椎損傷による車椅子生活を送っています。

だからこそ、防災について考えるたびに、一つの疑問が浮かびます。

「本当に自分は避難できるのだろうか。」

この疑問は決して悲観的なものではありません。

現実を知っているからこそ、真剣に考えなければならない課題なのです。

車椅子ユーザーが最初に直面するのは「避難」ではなく「動けるかどうか」

地震が発生すると、家具が倒れ、棚から物が落ち、部屋の中は一瞬で様子が変わります。

普段は自由に移動できる室内でも、

・家具が倒れる
・テレビが落下する
・本や荷物が散乱する
・ドアの前が塞がる

こうした状況になるだけで、車椅子では身動きが取れなくなる可能性があります。

つまり問題は、「避難所へ行けるか」ではありません。

その前に、「部屋の中を移動できるのか」という問題があるのです。

この視点は、防災マニュアルではあまり語られていません。

しかし車椅子ユーザーにとっては、最も重要な問題の一つだと思います。

集合住宅ではエレベーター停止が命に関わる

仮に部屋の中を移動できたとしても、次の問題があります。

それが玄関です。

段差、重いドア、狭い通路、スロープの有無。

さらに集合住宅では、地震による停電でエレベーターが停止する可能性があります。

上階に住んでいる場合、それだけで外へ出ることが極めて困難になります。

「避難してください」と言われても、物理的に避難できない。

これが現実です。

だからこそ、車椅子ユーザーの防災では、住まいそのものを含めた備えが重要になります。

避難所まで本当にたどり着けるのか

次に考えなければならないのは避難経路です。

避難所の場所を知っていても、

・道路の段差
・ひび割れ
・倒木
・瓦礫
・冠水
・停電した交差点

こうした状況では、車椅子で安全に移動することは簡単ではありません。

普段は問題なく通れる歩道でも、災害時には全く違う景色になります。

さらに、

「その避難所はバリアフリーなのか」

「多目的トイレは使えるのか」

「介助スペースはあるのか」

そこまで確認している人は多くありません。

「車椅子ならこう避難する」という正解は存在しない

車椅子ユーザーと一言で言っても、その状況は一人ひとり違います。

例えば、

・手動車椅子
・電動車椅子
・高齢者
・若い世代
・一人暮らし
・家族と同居
・介助者がいる
・介助者がいない

さらに地域によって、

・豪雪地帯
・津波地域
・山間部
・都市部

条件は大きく変わります。

つまり、「車椅子ユーザーはこう避難すればいい」という一つの答えはありません。

防災は、一人ひとり違うからです。

私が経験した約1週間の停電

2018年9月末、台風の影響で約1週間の停電を経験しました。

大地震ではありません。

それでも生活は大きく変わりました。

電気が止まると、情報が入らない。

スマートフォンの充電を気にする。

洗濯もできない。

コンビニへ行っても食料がほとんど残っていない。

信号は止まり、道路は大混乱。

普段見慣れている国道一号線が、まるで映画のワンシーンのような渋滞になっていました。

生活の中の小さな「当たり前」が、一つずつ失われていくのです。

数日間だけでも精神的な疲労は想像以上でした。

真夏だったらどうなっていただろう

今でも考えることがあります。

もしあの停電が真夏だったら。

私は頚椎損傷のため体温調節が苦手です。

エアコンが止まれば命に関わる可能性があります。

逆に真冬ならどうでしょう。

暖房が使えず、低体温になる危険もあります。

災害は地震だけではありません。

停電だけでも生活は大きく変わります。

だから私は、「避難できるか」よりも「生活を維持できるか」の方が重要だと考えるようになりました。

在宅避難という選択肢もある

防災では「避難所へ行くこと」が強調されがちですが、必ずしもそれだけが正解ではありません。

自宅が安全であれば、「在宅避難」という選択肢もあります。

もちろん、

・食料
・飲料水
・医薬品
・モバイルバッテリー
・車椅子用品
・介護用品

などの備えは必要になります。

また、自宅で過ごす場合でも、近隣とのつながりや支援体制を確認しておくことが重要です。

車椅子ユーザーにとっての避難とは「暮らしを守ること」

私は思います。

車椅子ユーザーにとって避難とは、単純に場所を移動することではありません。

自分の命を守り、生活を維持し、安心して過ごせる環境を確保すること。

それこそが、本当の意味での避難ではないでしょうか。

人によっては避難所へ行くことが最善かもしれません。

また別の人は在宅避難が現実的かもしれません。

重要なのは、「みんな同じ行動をすること」ではなく、「自分に合った選択肢を持っておくこと」です。

まとめ

災害が起きてから考えても、できることには限界があります。

だからこそ、普段の生活で感じる小さな不便、

「この段差は危ない」

「この道は通れない」

「停電したら困る」

そんな気付きこそが、防災の第一歩になります。

このブログでは、車椅子ユーザーだから見える現実を、一つひとつ実体験を交えながら発信していきます。

避難とは、単なる移動ではありません。

「どう生き延びるか」

「どう暮らしを守るか」

その視点から、防災を一緒に考えていけたらと思います。


竹内 啓悟(Wheelchair Project Japan 代表)

静岡県在住の車椅子ユーザー(頚髄損傷)。

車椅子での防災、バリアフリー、福祉、地域イベントを実際に体験・取材し、当事者の視点で情報を発信しています。

Wheelchair Project Japanでは、「誰もが安心して暮らせる地域づくり」を目指し、車椅子ユーザーの視点から現地調査や情報発信に取り組んでいます。

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