令和8年熊本地震|障害のある人・車いす利用者をめぐる公表資料から見えたこと

車いす利用者、高齢者、支援者が地域の地図と資料を囲んで話し合うイラスト 01 防災・避難

現時点で見えていること、まだ見えないこと

このたびの令和8年熊本地震で被害に遭われた皆様、避難生活や復旧作業を続けておられる皆様に、心よりお見舞い申し上げます。

また、震災前から地域の福祉、医療、介護、行政、自治会、支援団体などで支え合いを続けてこられた皆様に、深い敬意を表します。

障害のある人や車いす利用者の状況は、住まい、介助、医療機器、移動手段などによって一人ひとり異なります。確認できない部分を憶測で埋めず、事実を丁寧に見ていきます。

まず結論|障害別・車いす利用者別の被災・避難者数は確認できない

2026年8月29日現在、熊本県全体について、次のような確定的な公表数値は確認できませんでした。

  • 被災した障害のある人の総数
  • 車いす利用者の被災者数
  • 障害のある人、車いす利用者の避難者数
  • 福祉避難所を利用した人数
  • 自宅、親族宅、ホテル・旅館などに避難している障害のある人の総数
  • 車いす、電動車いす、補聴器などの補装具が使えなくなった件数
  • 障害種別ごとの被害、支援利用、生活再建の状況

熊本県は8月28日8時時点で、11市町の61か所の避難所に2,442人が避難していると公表しています。しかし、この避難者数を障害の有無、障害種別、車いす利用の有無で分けた県全体の集計は、一般公開されている資料からは確認できませんでした。

これは、支援が行われていないことを意味するものではありません。実際に、国、自治体、福祉・医療関係者、障害関係団体などによる対応は確認できます。

一方で、避難所にいる人の数だけでは、被災したすべての人の状況は分かりません。自宅にとどまりながら生活を立て直そうとしている人、親族宅へ避難した人、ホテル・旅館などの二次避難先を利用する人、福祉施設や医療機関で生活を続ける人もいます。

特に障害のある人への支援を考えるときは、「避難所に何人いるか」だけで全体像を判断しないことが必要です。

震災直後|発災当日から要配慮者への対応が始まった

こども家庭庁の特設ページによると、地震が発生した2026年7月28日、国は自治体などに対し、「災害により被災した要援護障害者等への対応について」の通知を出しています。

翌7月29日には、被災した障害者等に対する障害福祉サービスの支給決定などに関する通知が出されました。さらに7月31日には、福祉避難所などへの福祉関係職員の派遣、高齢者・障害者などの要配慮者への緊急的な対応、職員の応援確保に関する通知が出されています。

これらの動きは、発災直後から、避難や安全確保だけでなく、障害福祉サービスの継続、福祉職員の確保、避難先での個別支援が必要な課題として扱われていたことを示しています。

通知や制度は、現場で対応にあたる人たちの判断と努力によって初めて形になります。利用者の安全確認、家族との連絡、施設の被害確認、食事や排泄、服薬、移動、夜間対応などに取り組まれた皆様に、あらためて敬意を表します。

車いす利用者について確認できた事例|介護施設で起きたこと

TBSの2026年8月1日放送・配信の報道では、最大震度7を観測した宇城市の老人ホームで、地震発生時に車いす利用者を含む入所者が強い揺れに見舞われた様子が伝えられています。

報道によると、揺れで車いすが後方へ動き、入所者が床に投げ出される状況が起きました。施設では水道と電気が止まり、29人の入所者は比較的被害の少ない別施設へ移動しました。しかし、避難先では部屋数が足りず、ホールにマットレスを敷いて過ごす状況もあったとされています。

その後、地震発生から3日目に元の施設で電気が復旧したことも報じられました。

これは一つの高齢者施設で確認された事例であり、熊本県内のすべての車いす利用者、障害のある人、福祉施設に当てはまるものではありません。

ただし、強い揺れのなかで車いすを安全に保つこと、利用者を移動させること、避難先で寝床・トイレ・介助体制を確保すること、停電・断水のなかで生活を続けることが、現実に直面した課題であったことは確認できます。

車いす・電動車いすなどが使えなくなった場合の対応

熊本市は8月4日、令和8年熊本地震により家屋倒壊などで使えなくなった補装具について、再給付を行うと案内しています。

対象には、車いす、電動車いす、歩行器、補聴器などが含まれています。対象は、地震によって以前に給付を受けた福祉用具を使用できなくなった障害者手帳所持者です。

この制度は、災害によって補装具が使えなくなる可能性を想定し、生活を再開するための支援を行うものです。熊本市が確認した公開資料では、実際の再給付件数までは示されていません。

車いすは、人によっては移動だけでなく、姿勢を保つこと、体圧を分散すること、日常の介助を受けること、外出や通院を続けることに深く関わります。補装具の再給付制度を設け、窓口で個別に対応することは、生活再建を支える大切な取り組みです。

避難所で行われた支援|障害者の避難スペース確保

内閣府が公表した8月12日の会議資料では、災害派遣福祉チーム(DWAT)15チームが活動し、高齢者などへの生活上の相談支援とともに、障害者の避難スペースの確保などの環境整備を行っていたとされています。

同資料には、避難所などでの健康管理、熱中症対策、感染症対策、生活不活発病の予防、夜間対応などの支援も記載されています。介護・福祉施設等76施設から寄せられた給水ニーズに対し、自衛隊のトレーラーや国土交通省などの給水車が順次対応したこと、訪問入浴車の派遣調整が行われたことも公表されています。

避難生活では、食料や毛布といった物資だけでなく、移動、排泄、入浴、服薬、介助、睡眠、体調変化への対応など、日常生活を支える環境が必要になります。

支援にあたった福祉・医療・介護の専門職、災害支援ナース、保健師、リハビリテーション関係者、ボランティア、自治体職員など、各分野の皆様の連携が、避難所と地域の生活を支えてきたことが公表資料からうかがえます。

一方で、どの避難所で、何人分のスペースが確保されたのか、車いす利用者が何人利用したのか、トイレや入浴の状況がどうだったのかについて、県全体の詳しい公表数値は確認できませんでした。

発災から約3週間後|被災地障害者センターが相談を受け付け

熊本障害フォーラム(KDF、加盟29団体)は、令和8年熊本地震被災地障害者センターを開設し、8月18日からSOS支援依頼の電話受付を始めました。

同センターは、障害関係団体、支援団体、行政機関と連携し、次の活動を進めるとしています。

  • 被災した障害のある人の所在と支援ニーズの掘り起こし
  • 電話やメールによる相談受付
  • 相談内容に応じた支援ボランティアの派遣
  • 支援物資の募集と配分
  • 継続支援のためのボランティア募集と寄付の受付
  • 被災障害者支援に関する行政への要望

熊本市と八代市も、被災地障害者センターの相談先を公式サイトで案内しています。

公開されている相談例には、食料や日用品などの不足、自宅の片付けや家財処分、住まいの確保や引っ越し、障害のある子どもの見守りなどが挙げられています。

これらは想像上の困りごとではなく、相談窓口が支援対象として具体的に示している内容です。ただし、相談件数や相談内容の内訳は、現時点の公開資料からは確認できませんでした。

被災地障害者センターを立ち上げ、相談を受け、支援ニーズを掘り起こし、行政・地域・全国の団体とつなぐ活動は、時間と人手を要する地道な取り組みです。その役割を担っておられる皆様にも、心より敬意を表します。

障害福祉サービスを途切れさせないための対応

国は8月4日、被災者に係る障害福祉サービス等の利用料に関する取扱いを通知しました。8月7日には、一時的に避難している利用者に対しても障害福祉サービス等を継続して提供するための通知を出し、8月18日には補足となる第2報を熊本県・熊本市の担当部局へ発出しています。

避難によって住所地や利用先が変わっても、必要な障害福祉サービスが可能な限り途切れないようにするための対応です。

障害のある人が避難するか、自宅にとどまるかを考える際には、建物の安全だけでは判断できません。介助者、訪問サービス、通所先、服薬、医療機関、補装具、通信手段、移動手段などを継続できるかどうかが、生活そのものに関わります。

サービスを継続するために調整にあたる相談支援専門員、事業所職員、自治体担当者、ご家族、地域の皆様の努力は、被災後の生活を支える大きな力です。

一方で、今回の地震でどのサービスが何件中断し、どの程度復旧したのかについて、県全体を対象とする詳しい公表数値は確認できませんでした。

障害児施設の被害状況|施設被害は公表、個別の生活への影響は限定的

内閣府の8月15日資料には、熊本県内および長崎県内の障害児施設84施設から、建物被害、停電、断水に関する報告があったと記載されています。このうち熊本県内は82施設です。資料では、これらの施設における人的被害は「なし」とされています。

この数字は、障害児施設から報告された施設被害の状況を示すものです。地域で暮らすすべての障害児者の被害や、家族・職員の生活への影響を示すものではありません。

人的被害がないことは何より大切な情報です。その背景には、安全確認、利用者への連絡、サービス継続、代替場所の確保、保護者への対応などに取り組まれた職員・関係者の皆様の努力があったことを忘れてはならないと思います。

現時点で確認できたこと、確認できないこと

今回確認できた資料から、次のことは言えます。

  • 発災当日から、国・自治体は要配慮者や障害のある人への対応を進めていた
  • 避難所では、障害者の避難スペース確保を含む環境整備が実施された
  • 介護・福祉施設では、給水、入浴、人員などへの支援が行われた
  • 熊本市では、使えなくなった車いす・電動車いすなどの補装具の再給付制度が案内された
  • 避難先でも障害福祉サービスを継続するための特例的な対応が進められた
  • 発災から約3週間後、被災地障害者センターが設置され、相談受付、支援ニーズの掘り起こし、支援ボランティアの派遣などが始まった
  • 報道では、車いす利用者を含む介護施設の入所者が、強い揺れ、停電、断水、避難先の生活環境に直面した事例が確認されている

一方で、次のことは、現時点の公開資料だけでは断定できません。

  • 障害のある人や車いす利用者が、今回の地震でどれほどの割合で避難できたのか
  • 避難しなかった人が、どのような事情で自宅などにとどまったのか
  • 福祉避難所や一般避難所での暮らしが、それぞれどのような環境だったのか
  • 車いす利用者のトイレ、入浴、移動、充電、介助、褥瘡予防などに、どのような課題が生じたのか
  • 障害種別・地域別に、必要な支援がどの程度届いたのか

この「分からない部分」を、もっともらしい言葉で埋めないことも、被災地を記録するうえで大切です。

おわりに|正確な記録と、支援への敬意を

令和8年熊本地震では、避難所の環境整備、福祉職員の派遣、補装具の再給付、障害福祉サービスの継続、被災地障害者センターによる相談支援など、障害のある人を支える取り組みが確認できます。

一方で、車いす利用者や障害のある人が実際にどこで、どのように避難し、何を必要としたのかは、まだ十分に公表されていない部分があります。

被災された皆様が一日も早く安心できる生活を取り戻されること、そして地域で支援を続けておられる皆様の活動が、必要な人へ着実につながることを心より願います。

相談先・参考資料

※本記事は2026年8月29日までに確認した公表資料・報道に基づいています。被災した障害のある人や車いす利用者の状況を示す数値には、現時点で公表されていないものがあります。個別の支援が必要な場合は、居住地の自治体、相談支援事業所、障害者相談窓口、被災地障害者センターなどへご相談ください。


竹内 啓悟(Wheelchair Project Japan 代表)

静岡県在住の車椅子ユーザー(頚髄損傷)。

車椅子での防災、バリアフリー、福祉、地域イベントを実際に体験・取材し、当事者の視点で情報を発信しています。

Wheelchair Project Japanでは、「誰もが安心して暮らせる地域づくり」を目指し、車椅子ユーザーの視点から現地調査や情報発信に取り組んでいます。

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