夏はどうなる?
頚椎損傷の車椅子ユーザーにとって、暑さは「不快」ではなく「危険」です
夏が好きな人もいると思います。青空、海、祭り、花火、開放感。
けれど、頚椎損傷のある車椅子ユーザーにとって、夏はそんな明るい言葉だけでは語れません。
むしろ夏は、毎年やってくる試練です。
暑いから少し我慢する。
汗をかけばそのうち涼しくなる。
水を飲めばなんとかなる。
そうした“普通の感覚”が通用しない人たちがいます。
私自身、頚椎損傷があり、手動車椅子を使っています。
そして発汗がとても弱いです。
真夏に外へ出ると、わずか10分ほどで身体に熱がこもり、体温が39度を超えてしまうことがあります。
これは「暑かったね」で済む話ではありません。命に関わるレベルです。
今日は、頚椎損傷の車椅子ユーザーにとって、夏がどれほど厳しい季節なのか。
そして、どう備えれば少しでも安全に過ごせるのかを、実体験も交えながらお伝えします。
なぜ頚椎損傷だと暑さに弱いのか
人間の身体には、本来すばらしい冷却システムがあります。
暑くなると、
- 汗をかく
- 皮膚の血流を増やす
- 熱を外へ逃がす
- のどが渇き水分をとる
こうして体温を一定に保っています。
しかし、頚椎損傷ではこの仕組みがうまく働かないことがあります。
損傷部位や程度によって差はありますが、世界的にも「発汗しにくい」「体温調節が難しい」という傾向はよく知られています。
つまり、身体の中で熱が作られても、外へ逃がしにくいのです。
車でいえば、エンジンは動いているのにラジエーターがうまく冷えない状態。
そのまま走ればオーバーヒートします。
身体も同じです。
真夏に10分外へ出るだけで限界になる現実
「10分くらいなら大丈夫でしょう」
そう思われるかもしれません。
でも、真夏の直射日光、アスファルトの照り返し、無風状態、この条件が重なると一気に危険になります。
特に車椅子ユーザーは、
- 地面に近く照り返しを受けやすい
- 自分の力で日陰へ逃げにくい
- 手動車椅子なら移動自体が運動になる
- 姿勢を変えにくい
- すぐ休憩しにくい
という要素があります。
ただ座っているように見えても、身体にはかなり負担がかかっています。
私の場合、水分をとっても、上半身を水で拭いても、身体の芯が熱い。
表面だけ冷やしても追いつかない感覚があります。
これが本当にきついのです。
熱中症はこうして始まる
熱中症というと、突然倒れるイメージがあるかもしれません。
ですが実際には、少しずつ異変が始まることも多いです。
たとえば、
- なんとなくだるい
- 頭がぼーっとする
- 体が重い
- 吐き気がする
- 頭痛
- 顔が赤い
- 呼吸が荒い
- 集中できない
- いつもより力が入らない
こうしたサインが出たら要注意です。
特に感覚障害がある方は、「暑い」「つらい」がわかりにくい場合もあります。
気づいた時にはかなり悪化していることもあります。
水分だけでは足りない理由
よく「水を飲んでください」と言われます。
もちろん大切です。ですが、それだけでは足りないことがあります。
なぜなら問題は、単なる脱水だけでなく「体内に熱がこもること」だからです。
コップ1杯の水を飲んでも、熱そのものが逃げなければ苦しさは続きます。
さらに大量に汗をかけない場合、体温は下がりにくいままです。
つまり必要なのは、
- 水分補給
- 塩分補給
- 外気温を避ける
- 身体を冷やす
- 無理をしない
- 早めに休む
これらをセットで考えることです。
私が大切だと感じる現実的な対策
1. そもそも暑い時間に外へ出ない
一番効果的なのは、危険な時間帯を避けることです。
特に昼前から夕方までは厳しい日があります。
外出するなら、
- 朝早い時間
- 夕方以降
- 曇りの日
- 気温が低い日
を選ぶだけでも違います。
「根性で行く」はおすすめできません。
2. 涼しい環境を優先する
外出先でも、まず確認したいのは目的地ではなく“涼める場所”です。
- 冷房の効いた施設
- 休憩スペース
- コンビニ
- ショッピングモール
- 公共施設
途中で避難できる場所を知っておくと安心感が違います。
3. 湿度の高い場所を避ける
日本の夏は気温だけでなく湿度が高いのが厄介です。
湿度が高いと汗が蒸発しにくく、身体は冷えにくくなります。
発汗が弱い人にとってはさらに不利です。
数字の気温だけで判断せず、蒸し暑さにも注意が必要です。
4. 身体を外から冷やす
体内の熱を減らすために、外からの冷却はとても有効です。
たとえば、
- 冷たいタオル
- 保冷剤(タオルで包む)
- 冷却ベスト
- 首まわりの冷却グッズ
- 扇風機や携帯ファン
- ミスト
ただし冷やしすぎや凍傷には注意し、皮膚状態も確認してください。
5. 水分+電解質を意識する
汗の量が少なくても、水分は失われます。
また食欲が落ちると体力も下がります。
- 水
- 麦茶
- 経口補水液
- スポーツドリンク(飲みすぎ注意)
- 塩分を含む食事
その日の体調に合わせて無理なく補給しましょう。
6. 周囲に伝えておく
見た目ではわかりにくいこともあります。
「私は暑さに弱いです」
「体温が上がりやすいです」
「少しでも異変があったら休みたいです」
家族、友人、支援者、職場などに伝えておくことは大切です。
理解者がいるだけでリスクは下げられます。
自宅でも安心とは限らない
外が危険なら家にいれば安全。
そう思いがちですが、そうとも限りません。
室内でも、
- エアコンを我慢する
- 節電しすぎる
- 風がない
- 湿気がこもる
- 水分を忘れる
こうした条件で熱中症は起こります。
特に夜間は気づきにくいので注意が必要です。
「室内だから平気」は禁物です。
社会に知ってほしいこと
熱中症対策というと、一般向けの情報が中心です。
でも障害のある人、体温調節が難しい人には、別の視点が必要です。
たとえば、
- 福祉避難所の温度管理
- 停電時の電源確保
- 移動支援
- 冷房のある避難スペース
- 個別配慮の周知
こうした備えがもっと広がってほしいと思います。
「みんな同じ対策」で守れない人がいます。
まとめ|夏は気合いでは越えられない
頚椎損傷の車椅子ユーザーにとって、夏の暑さは単なる季節の悩みではありません。
体温調節が難しく、短時間の外出でも危険になることがあります。
だからこそ必要なのは、無理をしないことです。
- 暑い時間を避ける
- 涼しい場所を選ぶ
- 湿度にも注意する
- 身体を冷やす
- 水分と電解質をとる
- 周囲に伝える
頑張りすぎるより、早めに守る。
それが本当に大切だと感じます。
夏を好きになる必要はありません。
でも、正しく備えることで、少しでも安全に過ごすことはできます。
同じように暑さで苦しんでいる方へ。
あなた一人だけではありません。
竹内 啓悟(Wheelchair Project Japan 代表)
静岡県在住の車椅子ユーザー(頚髄損傷)。
車椅子での防災、バリアフリー、福祉、地域イベントを実際に体験・取材し、当事者の視点で情報を発信しています。
Wheelchair Project Japanでは、「誰もが安心して暮らせる地域づくり」を目指し、車椅子ユーザーの視点から現地調査や情報発信に取り組んでいます。


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