【車椅子防災】車椅子ユーザーにとっての「安全な場所」とは|地震時に本当に守られる環境を考える

車椅子ユーザーが安心して避難生活を送るための避難所イメージ。受付やプライバシーテントを備えた体育館 01 防災・避難
車椅子ユーザーにとって避難所は「避難できる場所」だけでなく、「生活を続けられる場所」であることも重要です。

災害が起きたとき、よく「安全な場所へ避難してください」と言われます。
けれども、車椅子ユーザーにとっての「安全な場所」は、必ずしもみんなと同じとは限りません。

一般的には、体育館や公民館などの避難所が思い浮かびます。
しかし実際には、夏冬時の空調問題、床の硬さ、トイレの使いにくさ、体力の低下、ケガのリスク、プライバシーなどを考えると、そうした場所での生活が難しい人もいます。

特に地震のあとは、助かったあとにどう生活を続けるかも大きな問題になります。
命が助かることはもちろん大切ですが、その後の数日、あるいはそれ以上をどう過ごすのかまで考えなければ、本当の意味での「安全」とは言えません。

この記事では、車椅子防災という視点から、車椅子ユーザーにとっての「安全な場所」とは何かを見直し、地震 避難において何を基準に考えるべきかを整理してみます。

「安全な場所」は人によって違う

まず前提として大事なのは、安全な場所は人によって違うということです。

健常者にとっては問題ない場所でも、車椅子ユーザーにとっては大きな負担になることがあります。たとえば、段差がある、トイレが使いにくい、人が多くて動きにくい、長時間同じ姿勢を強いられる、寒暖差が厳しい。こうしたことは、避難生活では想像以上に大きな問題になります。

つまり、「避難所だから安全」という単純な話ではありません。
その場所に行けるかだけでなく、そこで生活できるか体への負担が少ないかまで含めて考える必要があります。

体育館や公民館が難しいこともある

一般的な指定避難所として、学校の体育館や地域の公民館が使われることは多いです。
ただ、車椅子ユーザーにとっては、そこが必ずしも適した場所とは限りません。

床が硬ければ体に負担がかかりますし、空調が十分でなければ体調を崩しやすくなります。トイレの構造によっては一人で使えないこともありますし、周囲に人が密集する環境では移動もしづらくなります。少しの不便が、車椅子ユーザーにとっては生活そのものを難しくしてしまうことがあります。

だからこそ、「みんなが体育館に行くから、自分もそこへ行く」という発想だけでは不十分です。
車椅子ユーザーにとっては、避難先で暮らし続けられるかどうかがとても大きな基準になります。

国の考え方も「避難所一択」ではない

ここは大切なポイントですが、いまの防災では、避難=指定避難所に行くことだけを意味しているわけではありません。

内閣府は、在宅避難者や車中泊避難者への支援の手引きを公表しており、自治体に対して在宅避難者等への適切な支援を求めています。これは、避難の形が一つではないことを前提にしているということです。

また、内閣府は「指定緊急避難場所」と「指定避難所」を区別しています。指定緊急避難場所は災害の危険から命を守るために緊急的に避難する場所で、指定避難所は被災者が一定期間滞在するための施設です。つまり、「とりあえず逃げる場所」と「その後生活する場所」は同じとは限りません。

この考え方を踏まえると、現在の防災では、状況に応じて避難先を分けて考える、いわゆる分散避難の考え方が広がっているといえます。これは特別な考えではなく、国の方針に沿った現実的な見方です。

車椅子ユーザーにとって考えたい選択肢

では、車椅子ユーザーにとっての「安全な場所」は、具体的にどんな候補があるのでしょうか。

在宅避難

まず大きな選択肢になるのが在宅避難です。
自宅の建物に大きな危険がなく、水や食料、電源、トイレなどがある程度確保できるなら、自宅にとどまることが最も現実的な場合があります。内閣府も在宅避難者への支援を明確に位置づけています。

車椅子ユーザーにとって、自宅は慣れた環境であり、動線やトイレの使い勝手も分かっています。在宅避難は、単なる「家にいる」という話ではなく、生活を継続できるかという視点で見たときに、非常に重要な選択肢です。

親族・知人宅への避難

自宅が危険な場合でも、親族や知人の家に避難できるなら、それも有力な選択肢です。
避難所より静かで、環境調整がしやすい場合もあります。いわゆる分散避難の一つとして考えられるものです。

福祉避難所

障害者や高齢者など配慮が必要な人に向けては、福祉避難所という仕組みがあります。内閣府のガイドラインでも、福祉避難所は主として要配慮者を受け入れる避難所として位置づけられています。

ただし、ここは誤解しやすいところですが、福祉避難所は「誰でもすぐ自由に行ける場所」とは言い切れません。自治体の運用や受け入れ体制によって異なり、状況に応じて開設・調整されるものです。だからこそ、平時のうちに自分の住む自治体ではどうなっているのか確認しておくことが大切です。

病院や介護施設

体調面や医療的ケアの必要性を考えると、病院や地元の介護施設のような場所が候補になることもあります。
ただし、ここは少し注意が必要です。病院や介護施設は、一般の避難所のように誰でも自由に入れる場所とは限りません。受け入れ対象、事前登録、自治体との連携などが関わる場合もあるため、「行けば入れる」と考えるのは危険です。

それでも、空調や介助、体調管理の面を考えると、車椅子ユーザーや要配慮者にとって重要な候補になり得ます。だからこそ、これから先は「自分の場合、もし地震が起きたらどこが候補になるのか」を、自治体、ケアマネジャー、支援者、家族などと一緒に確認していくことが大事だと思います。

実際に感じたこと

地域で聞いた話の中には、鉄筋コンクリートの団地では、区長が「無理に公民館へ避難せず、自宅で待機することも考えてほしい」と提案している例もありました。これは、建物の構造や状況を踏まえて在宅避難を現実的な選択肢として見ているということだと思います。

一方で、その団地に住んでいない人はどうするのか、本当に自宅待機でよいのか、福祉避難所や施設とのつながりはあるのかなど、疑問も残ります。正直に言うと、こうした話を聞いて、私自身も「まだ十分に知らないことが多い」と気づかされました。

でも、その気づきは大事だと思っています。
防災は、なんとなく知っているだけでは足りません。自分の生活、自分の体、自分の地域に当てはめて初めて、本当に必要な準備が見えてきます。

まとめ

車椅子ユーザーにとっての「安全な場所」は、単に建物の中に入れる場所ではありません。
移動できること、生活できること、体への負担が少ないこと、必要な支援につながれること。 そうした条件がそろって、初めて「安全な場所」と言えるのだと思います。

そして現在の防災では、避難所だけに頼るのではなく、在宅避難や親族・知人宅への避難、福祉避難所など、複数の選択肢を状況に応じて考えることが前提になっています。

だからこそ、車椅子ユーザーにとって大切なのは、「みんなと同じ場所」を探すことではなく、自分にとって本当に安全な場所はどこかを、あらかじめ考えておくことです。

参考資料(公的ガイドライン)

・内閣府「在宅・車中泊避難者等の支援の手引き」
→ 在宅避難や分散避難の考え方について詳しくまとめられています

・内閣府「避難場所に関する情報」
→ 指定避難所と指定緊急避難場所の違いについて解説されています

・内閣府「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」
→ 要配慮者向けの避難所の考え方や運用が示されています


竹内 啓悟(Wheelchair Project Japan 代表)

静岡県在住の車椅子ユーザー(頚髄損傷)。

車椅子での防災、バリアフリー、福祉、地域イベントを実際に体験・取材し、当事者の視点で情報を発信しています。

Wheelchair Project Japanでは、「誰もが安心して暮らせる地域づくり」を目指し、車椅子ユーザーの視点から現地調査や情報発信に取り組んでいます。

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